以前お付き合いのある測量事務所から相談があった。
環境省からの要請で浪江町の1万4千戸を超える除染作業のために
家屋の事前調査をして欲しいという。
除染の効果や予算云々についてはさまざまな疑問があるところではあるが、
建築士にしかできない仕事であり他県の人は受けないであろう、
そうすると我々がやらないと始まらない。
日本建築家協会福島地域会にはかり、
建築士会にも声をかけて災害支援として協力することに決定した。
そして、内部被爆を計るホールボディーカウンター検査を受けてから、
私が先行隊の一人として6月18日浪江町に入った。
今まで何度も通った国道288号線(通称ニイパッパー)だが、
都路あたりから人気がなくなり山の中を走っていると検問所で止められた。
そこからが20キロ圏内、そして程なく警戒区域に入った。

なんとも不思議な気持ちである。
町の中はとにかく静かで、
地震被害がそんなにひどくないところでは今までと変わらない町を見ているようだが、
JR常磐線の線路は赤く錆び付き雑草で埋まり・・・・・人がいない。
犬猫さえも見かけなかった。


被害の大きな浪江駅前は3.11で時間が止まってしまったかのように感じた。
倒壊寸前の店の商品が歩道に散乱したままで、
駅前広場の外灯の大きな灯部が落下したその隣の大きなたて看板に
「安心して暮らせるやさしいまち」というスローガンが書かれていた。
何人の一時帰宅者がこの看板を見上げ悔しさを覚えただろう。
歩道のアスファルトを突き破った伸び放題の雑草が、
確実に時間が過ぎたことを教えていた。


フクシマ 阿部直人
【関連する記事】